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January 24-26 メスメリズムとアメリカ (補足の4)――擬似科学をめぐって(22)  On Pseudosciences (22) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]

January 24, 2009 (Saturday)
January 25, 2009 (Sunday)
January 26, 2009 (Monday)

  ちょっと補足的な説明を断章的に書いておきます。のパート4。やっと5番目のまとめです。

I.     フィニアス・パークハースト・クインビー Phineas Parkhurst Quimby, 1802-66 のその後
II.    クインビーと
エディー夫人 Mary Baker Eddy, 1821-1910
III.  ジョン・ボヴィー・ドッズ John Bovee Dods, 1795-1872 における電気と磁気
IV.  ジョーゼフ・ブキャナン
Joseph Buchanan, 1814-89 のサイコメトリー
V.   民間治療と心理学

MaryBakerEddy-Eearliest(1850s).jpg
クリスチャン・サイエンス Christian Science の創始者 Mary Baker Eddy (1821-1910) の現存するもっとも若い頃の写真(1850年代前半) via "Star of Boston: The Life of Mary Baker Eddy by Helana M. Wright - Introduction" - image via <http://mbeinstitute.org/Star/starintro.html>

Blavatsky_and_Olcott.jpg
神智学協会 Theosophical Society の創始者 Helana Blavatsky (1831-91) と Henry Alcott - image via "Madame Blavatsky - Wikipedia" <http://en.wikipedia.org/wiki/Blavatsky>

tingley.jpg 
Katherine Tingley (1847-1929), founder of the Point Loma Universal Brotherhood and Theosophical Society Homestead. via "Journal of San Diego History" <http://www.sandiegohistory.org/journal/97winter/theosophicalimages.htm>

    V.   民間治療と心理学

   というタイトルをずっと載せてきてしまったのですが、内容はちょっとはずれたものになるかもしれません。ホメオパシーや薬草学など、正統的な西洋医学の伝統からはずれたところの民間的な治療と、その後の、メスメリズムがらみの信仰治療的なものが、19世紀後半にアメリカでどうなったかを探るためのメモを記すというのが主旨です。

  いろいろと考えるところはあったのですけれど、個人的な考えを書く前に、心理学の歴史の専門家の本の記述を紹介することにします。Shadow Culture: Psychology and Spirituality in America (Washington, D.C.: Counterpoint, 1999) という本を書いたEugene Taylor はハーヴァード大医学校で心理学と精神医学の歴史を長年教えてきた人で、ハーヴァード大学の図書館に1923年に寄贈されたウィリアム・ジェイムズの膨大な蔵書のなかから発見されたスピリチュアリズム、精神治療、悪魔学、魔女術、多重人格、その他の関係の資料の整理に導かれて、「影の文化」、すなわち主流の正統的学問や制度ではなくて、その背後、周縁、あるいは下部に位置づけられた――歴史的に言うと、はじめは懐疑的に見られたけれどもしかしアメリカ文化のなかで支配的な役割を演じ続けている(とテイラーさんは考えます)――ポップ宗教的、意識の覚醒的な「サイコロジー」の歴史を跡付けようとして書かれたのが本書です。たぶん。

  南北戦争がアメリカの社会史の転換点だったとテイラーさんはいいます(まあ、これは誰でもいうことかもしれないし、文学でいうと、リアリズムへの遅れた転換は南北戦争を契機にしていました)。古い民間「サイコロジー」(これはコトバの定義によるのですけれど、心の病、あるいは病というのでなくても、心の悩みや癒しや精神問題を扱うということ、いや、そもそも(な)やんでいなくても人間精神のありようを学ぶこと、と理解されます)は、実証主義的な科学が力を増すことによって、背景に退く。医学における専門教育は高度に機構化されたものとなり、実験も科学的に厳密で洗練されたものになる一方、社会科学、生命科学の諸領域の専門化が進む。「科学」を主眼とする文化と民衆的「サイコロジー」は、「ヴィジョン」を核とするような伝統が押しやられるに伴って、根本的に分離してしまう。学問領域としての「心理学」は、自然科学 natural sciences を範として自己形成をはかり、内容を計測可能なもののなかに厳密に限定してしまうようになる。計測可能なものとは、原因結果、因果関係の還元主義的、実証主義的な語彙で説明されるだけのもの。

  しかし、同時に、心の治療なり癒しなりへの大衆的関心は、衰えるどころか高まった。19世紀前半に、アメリカの地域地域で先駆者・開拓者が出現し、心の問題への関心が高まったのに対して、1870年代から19世紀末にかけては、アメリカ全体、さらには国際的な視野をもった、精神的治療のための成熟した機構が生み出され、それらの多くは現在まで存続している。と、テイラーさんは言います(112-113ページ)。

  そのあとが、興味深いのですけれど――。「実証主義的科学の台頭とともにアメリカのハイカルチャーのなかで幻視的な伝統が次第に抑圧されるが、民衆的な場のなかで栄えただけでなく劇的に発展した、というこの逆説の、鍵となる理由のひとつは、少なからずフェミニズム運動の成長に原因がある。」 (It should be noted in closing that one of the key reasons for this paradox―that the visionary tradition was gradually suppressed within American high culture because of the rising tide of positivistic science, while it not only flourished but expanded dramatically in the popular arena―was due in no small part to the growing feminist movement.) 〔直訳です。ヘンなのは原文がヘンなのw〕 南北戦争によって結婚適齢の男子が戦場に斃れ、あとに過剰な数の独身女性を残された。女性の必要品が商業広告の新たなテーマとなり、婦人病が医学と診療の新たなテーマとなり、かつて世紀半ばにはスピリチュアリズムの運動のエネルギー源となっていた女性の思想が、婦人参政権、正当な(男女平等)雇用、機会均等、といったより切実な問題にむかった。医療の世界では、William Alexander Hammondや Silas Weir Mitchell 〔このひとは作家でもありました〕や William Osler や William Welch といった男性が、外科医学、神経病学、精神医学といった主流の科学の学問分野で、専門領域を支配する。が、その一方で、率直で、カリスマ的で、強い新しい世代の女たち、たとえばメアリー・ベイカー・エディーやへレナ・ブラヴァツキーやキャサリン・ティングリー、が、直観的、想像的、超越的なるものを擁護して、影の文化を支配するようになった。(113ページ)

  エディー夫人とブラヴァツキー夫人は、なんとなく前に言及したので、ティングリーについて。ティングリーはマサチューセッツ州生まれで、いわゆるソーシャル・ワーカーとしてニューヨーク市で活動していたのですが、神智学協会のウィリアム・ジャッジ William Quan Judge, 1851-96 (このひとは1875年にニューヨークでロシア生まれの見霊家ブラヴァツキーと奴隷解放の闘士だったオルコット大佐を中心にニューヨークで設立された神智学協会の当初からのメンバーのひとりで、ブラヴァツキーたちが外国で活動をしているあいだの留守居役をしていた人です)と出会い、1894年に神智学協会Theosophical Societyに加入します。1891年のブラヴァツキー夫人の死去ののち神智学協会は分裂の歴史を重ねる(最も重要なのは1902年にドイツの神智学協会の事務局長になったルドルフ・シュタイナーが1913年にわかれてつくった人智学協会 Anthroposophical Societyでしょうが)わけですけれど、ティングリーは、ジャッジがアメリカの会員の多くを連れて出て行ったあとのアメリカの神智学協会の本部をまかされ、さらにジャッジの秘書だった Ernst Hargrove が分かれて東海岸のニューヨークで "The Theosophical Society in America (Hargrove branch)" をつくったのに対して西海岸のカリフォルニアに本部を移して1900年にLomaland at Point Loma, California に自給自足のコミュニティーをつくった人です。アヴォカドをカリフォルニアに移植してカリフォルニアロールへ道を開いたのはこの農本的神智学共同体によるという、トリヴィアな話もありますけれど、ティングリーは、教育施設を造り(1919年には Theosophical University もできます)、演劇を重視し、女性の仕事を重視し(6割が女性だったようです)、貧しい者には無料で教育を与え、1942年にロサンゼルス近郊のCovinaに移るまではここがアメリカの神智学協会の本部となるのでした。

   まあ、神智学が心理学かというと、そうは言えないでしょうし、テイラーさんはやっぱり psychology を本来的な意味にズラして再定位しようという考えがあるのではないかと忖度(そんたく)するのですけれど、プシュケーとプネウマ、魂と霊を、分けつつ合わせて考える奥行きを神智学がもっていたのは確かだとは思うのです。

  ところで、日本語のウィキペディアにも外国語のウィキペディアにも神智学協会の項目にのっかっている印璽(「紋章」 というのが日本語ウィキペディアの言葉ですが、アメリカ合衆国の国璽と同じく "seal")は次のようなものです。――

tszegel.jpg
The Society's seal incorporated the Swastika, Star of David, Ankh and Ouroboros symbols. via "Theosophical Society - Wikipedia" <http://en.wikipedia.org/wiki/Theosophical_Society>

  はい。これは、どこかで見たような・・・・・・。思い起こせば、偶然のようにして、第1回「December 27-28 擬似科学をめぐって(1) イントロふうに  On Pseudosciences (1)」を書くときに見た目でアピールしようと貼った、これら――

  あ、敢えて自己引用することにします。こんなふうに書きました――

  たとえば、とたとえを出すと本題に入ってしまってハナシが重たくなりそうなので、画像でいきますが、マーガレット・フラー 〔・・・・・・〕の有名な記念碑的著作『19世紀の女性』(1845年)の扉にはつぎのような挿絵が入ってました。――

Frontispiece_MargaretFuller_WomenintheNineteenthCentury (1845).jpgこれだけクリックでかなり拡大
Frontispiece to Women in the Nineteenth Century (1845)

  これは、このブログでも何度か言及した自らの尾を食う宇宙ヘビ、ウロボロスですね。で、これのどこが擬似科学なんだ、と言われれば、別に擬似科学ではないんです。が、メスメリズムに関心をもっていたことで知られるフラーは、前々年の1843年にボストンで出版されたThe History and Philosophy of Animal Magnetism by "A Practical Magnetizer" という本を目にしていた可能性があります。この『動物磁気説の歴史と哲学』という作者不詳の本の最後にはつぎの図版が載っていました。――

ClosingImage_TheHistoryandPhilosophyofAnimalMagnetism(1843).jpg
The History and Philosophy of Animal Magnetism (Boston, 1843)

   ヘビの向きが逆ですが、ウロボロスのなかに太陽のようでもあり目のようでもある TRUTH が(フラーのように六芒星みたいなふたつではなくてひとつの三角形のなかに入って描かれています。そしておそらくメスメリズムの術を支えるものとしてFAITH, POWER, WILL の三つの相が三角形を成している。その中心からのrays は、フラーの絵では宇宙ヘビの外側まで伸びているようです。

  もうひとつ、1844年7月13日にフラーがエマソンに送った手紙に載っていたらしい "Serpent, triangle, and rays" の絵のもとになった、フラーの日記に登場する自筆のスケッチ――

DoubleTriangle,SerpentandRays_MargaretFuller (1844journal).jpg

"Double Triangle, Serpent and Rays" (July 1844 Journal)

   これは、ウロボロスの向きが1843年の本と同じです(細かいw)。ray は外でだけ発光(?)しているようです。

  さて、フラーはデザインをパクッたんじゃないの、というのが主眼ではなく、神秘学的な伝統的なイメジが、同じ時代の著作に変奏的にあらわれ、その理由がどうやら思想的に通底しあうものをもっていた(あるいは通じると考える人たちがいた)からだ、というところに興味があります。

  神智学協会の璽の中央の十字はいわゆるエジプト十字、アンク、というやつですが、こうしてみるとまるで女性のシンボルのようです。

  ということで、ウロボロスのように終わりが初めに戻ったということで、この短期集中はいったんこれで切りたいと思います。しかし切っても切れないということもわかったので、すぐに書くかもしれません(そのときはたぶん「擬似科学周辺」で書くかも)。実を言うと、いろいろと核分裂した話のタネや、そもそもどこかで書いていきたいと思っていたアメリカ文学の作家や作品との関係とかたくさんあるのです。が、短期集中の看板をかかげてやっていると最初から少ない読者はさらに減るわ、自分の仕事(滞在残り3か月を切って、ほんとは必死でしあげねばならぬ仕事もマジであり)に収斂も収束も集中もしないわ、適当なことを書くことに対する罪悪感は高まるわ、義務感がブログの楽しみを(ちょっとだけ)奪うわ、いや、もう一か月経ったし、もうこれ以上は短期ではないな、という気持ちもあります。

  それでもおかげさまで勉強になりました。擬似科学についてどうだ、という結論はまだ言わずにおきます。わかりにくい文章を読んでくださった(くださっている、くださるであろう、くださるかもしれない)少数の読者のみなさん、どうもありがとうございま


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あひるのドナちゃん

こんにちは。
私には難し過ぎる内容でした!
でも、読んじゃうもんね!!
by あひるのドナちゃん (2009-01-27 18:04) 

morichan

あひるのドナちゃんさま
ありがとうございます。力がモリモリわいてきました。
by morichan (2009-01-28 00:48) 

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