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January 5-6 ホメオパシーとスウェデンボルグ主義 (下)――擬似科学をめぐって(8)  On Pseudosciences (8) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]

January 05, 2009 (Monday)
January 06, 2009 (Tuesday)

  「January 3-4 ホメオパシーとスウェデンボルグ主義 (上)――擬似科学をめぐって(7)  On Pseudosciences (7)」のつづきです。

    ボストン生まれのデンマーク系移民のハンス・バーチ・グラム Hans Birch Gram は、母の死後渡欧して大学で医学を学び、さらにハーネマンにホメオパシーを学んで、1825年にアメリカにもどり、ニューヨークで開業医となりました。ハーネマンの論文を英語に訳してパンフレットを出版したグラムのまわりに最初集まったのはスウェデンボルグ主義者たちで、その後もアメリカにおいては、ホメオパシーとスウェデンボルグの思想が手を携えて広まったというのは事実のようです。ホメオパシーを教える医学校がフィラデルフィア、シンシナティ、ボストンなどに出来ますが、スウェデンボルグ思想に共鳴する人々が通いました。東部のホメオパシーの薬剤師(薬局)として大手であった、フィラデルフィアのBoericke & Tafel とボストンの Otis Clapp は、どちらもスウェデンボルグの著作のアメリカでの出版社でもありました("F. E. Boericke and His Machine" <http://julianwinston.com/archives/bt/boericke_potentizer.php> 、"Otis Clapp 1820 - 1886" <http://homeopathy.wildfalcon.com/archives/2008/03/21/otis-clapp-and-homeopathy/> 参照)。あるいは、のちの話ですが、フィラデルフィアのハーネマン・メディカル・カレッジにはスウェデンボルグ主義者が多く関与し、教師のなかでは Constantine Hering とCharles Raue がホメオパシー治療の背景にある "psychology" を講義したということです。このへんの名前が一緒に出てくるWEB 上の論文を引いておきます。――

The two outstanding American homeopaths, the "father" of American homeopathy, Dr. Constantine Hering (1800-1880) and the virtual founder of the pure (classical) Hahnemannian homeopathy of the 20th century, Dr. James Tyler Kent (1849-1916), were members of the New Church. Other distinguished homeopaths like Dr. Hans Burch Gram (1787-1840) as well as the world-wide known homeopathic publishers Boericke (1826-1901) and Adolph Tafel (who had started with publishing Swedenborg’s works and on suggestion of Constantine Hering began later also to publish homeopathic literature), Dr. John Ellis of Michigan and Dr. Otis Clapp of New England were all followers of Swedenborg.  J.-T. Kent himself stressed that "All my teaching is based on the doctrines of Hahnemann and Swedenborg. These doctrines are agreed excellently each with the other".  (カリフォルニア時間6日夜追記 訳をつけていくことにします――ふたりの傑出したアメリカのホメオパス(ホメオパシー実践者)は、アメリカのホメオパシーの「父」であったコンスタンティーン・ヘリング博士(1800-80) と、20世紀の純粋(古典的)ハーネマン流ホメオパシーの実質的創始者であったジェームズ・タイラー・ケント博士 (1849-1916) であるが、スウェデンボルグ教会のメンバーであった。他にも、著名なホメオパスとして、ハンス・バーチ・グラム (1787-1840) や、世界的に有名なホメオパシーの出版社のボーリック (1826-1901) とアドルフ・ターフェル(この人はスウェデンボルグの著作の出版からはじめて、コンスタンティーン・ヘリングの助言でのちにホメオパシー関係の文献の出版も始めた)、そしてミシガンのジョン・エリス博士やニューイングランドのオーティス・クラップ博士などは、皆スウェデンボルグの信奉者であった。J・T・ケントも自ら、「私の教えはハーネマンとスウェデンボルグの教義に基づいている。ふたつの教義は互いに見事に合致している」と強調した。

      

     Hans Birch Gram                                             James Tyler Kent
       (1787-1840)                                                       (1849-1916)

  While not attempting here a detailed elucidation of the interactions between the Swedenborgian and Hahnemannian teachings,  I would like to mention that there were influences on homeopathic thinking by Swedenborg’s ideas (like the doctrine on the Infinity, dividing the psyche hierarchically into three separate levels, etc.) but not less influential was Kent’s adoption of these ideas. "Especially Kent had combined both systems and thereby created a distinct school of American homeopathy".

   Constantine Hering, who became the head of the Hahnemannian College in Philadelphia, which he had established in 1848, was also an active member of the New Church in Philadelphia. He often discussed philosophical aspects of Swedenborg’s teaching. 〔Alexander Kotok, "The History of Homeopathy in the Russian Empire until World War I, as compared with other European countries and the USA: similarities and discrepancies" <http://www.homeoint.org/books4/kotok/4430.htm> 〕

   グラムもスウェデンボルグ主義者だったと書かれていますね。20世紀のホメオパシーの基礎を築いたジェームズ・タイラー・ケントも同様と。"New Church" というのはChurch of the New Jerusalem と同じで、スウェデンボルグの死後、彼の思想に共鳴する人々がつくった「教会」なのですが、ここらへんで、スウェデンボルグについて簡単に記します。日本語のウィキペディアには、だいぶ詳しい知識をもったひとによる記事があります――「エマニュエル・スヴェーデンボリ - Wikipedia」/ "Emannuel Swedenborg - Wikipedia" / "Swedenborgian Church [Swdenborgianism] - Wikipedia"

    日本語のウィキペディアは「スヴェーデンボリは当時 ヨーロッパ最大の学者であり、彼が精通した学問は、数学物理学天文学宇宙科学鉱物学化学冶金学解剖学生理学地質学自然史学結晶学などで、結晶学についてはスヴェーデンボリが創始者である。 」と書いています。スウェデンボルグは18世紀の科学者であり、同時に宗教的経験の解釈者でもありました。さまざまな学問に精通するとともに、技術者、発明家でもありました。しかし、彼の主要な関心は魂の探求に科学(学問)を使うというところにあったようです。外的自然についてさまざまな研究をしたあとで、最終的には自分自身の意識を科学的探究の対象としてむかいあうことになります。夢解釈によって自己の内部に接近しようとする。けれどもこれによって一種の宗教的な危機が訪れます。50代なかばでスウェデンボルグがのちに語ったところでは神が彼を訪れて、「ロゴス」の霊的意味を基礎として、聖書の新しい解釈を書くように命じたということです。スウェデンボルグは多数のヴィジョンを見るようになり、霊能力を発揮するようになったらしい。5巻の霊日記や最も有名な『天界と地獄 〔Heaven and Hell が英題だけれどラテン語で出版〕』(London, 1758)には神の使いの天使たちによって見せられた天界と地獄の領域の記述が出てきます。最後の審判のヴィジョンについては、世界規模の霊的意識の変容を意味すると解釈しています。この新しいイェルサレムがどのようなものであるかを主題とする本を何十冊も書きました。

  スウェデンボルグは1772年にロンドンで亡くなりますが、それはルター派のキリスト教会の教えに反するということでスウェーデンを追われて、イギリスに後半生は滞在していたのでした。で、スウェデンボルグ自身は教団なり党派なりをつくるということはしなかったのですが、死後に彼の思想に共鳴するひとびとがつくったのが「新エルサレム教会」(スウェデンボルグ教会)で、それがイギリスから起こったのは、スウェデンボルグがイギリスに没したことと関わっています。イギリスとフランスとアメリカ合衆国が19世紀のスウェデンボルグ教会の中心でしたが、1828年にはアメリカのスウェデンボルグ教会の数は80に達し,イギリスの49を遙かに抜いています〔この数字は昔読んだCharles Webb のThe Occult Underground という研究書からのメモ〕。

  スウェデンボルグは霊界と現世との照応思想 correspondence を展開したことで有名で、この「照応」は、ボードレールをはじめとするフランス象徴主義のひとつのバックボーンみたいなものになっています。が、よくわからないのは、たとえば次のような文章(英訳ですが)におけるsoul と spirit の扱い。――

Since, then, without a perception of what correspondence is there can be no clear knowledge of the spiritual world or its inflow into the natural world, neither of what the spiritual is in its relation to the natural, nor any clear knowledge of the spirit of man, which is called the soul, and its operation into the body, neither of man's state after death, it is necessary to explain what correspondence is and the nature of it.  [Emanuel Swedenborg, Heaven and Hell (New York: Swedenborg Foundation, 1952), p. 50]

(照応がいかなるものであるかを知らねば、霊界についての知識、あるいは霊界の自然界への流入についての知識も明確には得難いのだし、霊的なものが自然的なものといかなる関係を持つのか、また、魂と呼ばれる人間の霊について、また体への働きについての明確な知識も、死後の人間の状態についての知識も得難いのだから、照応とはなんであり、どのような性質のものかについ説明する必要がある。)

  ここで、霊界と自然界の照応を語りつつ、人間的自然(human nature)を構成する体(body) と霊(spirit) ないし魂 (soul) について同時に語っておるわけですが、「魂と呼ばれる人間の霊」と書かれては、文字通り混乱してしまいます。

  うえで、ヘリングがホメオパシーと心理学の関係を講じたということを書いたところで思い出したのですが、ホメオパシーの創始者のハーネマンはドイツで精神病院の運営を一時やったことがあり、そこで病気の心理的な要素についての理解を深めたようなのですね。で、アメリカで言うとと、ボストンの医学校 Boston University School of Medicine はもとはホメオパシーを教える女性の医学校だったのですが、そこはWestbro State Hospital という地域の精神病院とかかわって、ホメオパシー療法を施したのだそうです。で、それはマサチューセッツ州の住民が投票で支持したのですが、マサチューセッツというのはスウェデンボルグ教会がたくさんある土地なのでした。以前なんか文学関係の本で、(19世紀後半に)スウェデンポルグ教会は心の病の治癒に力を入れたというような記述を読んだことがあって、ピンとこなかったのですけれどなんとなく問題のありかがわかってきたような気がしてきました。(うわー、ひとりよがり)  訳さなかった先の英語の引用の "dividing the psyche hierarchically into three separate levels" あたりをちょっと勉強してきます。

  ホメオパシーが、いまはともかく、19世紀前半のアメリカで人気だったのはいくつか理由があって、薬による影響がおだやかで乳幼児にも適用可能だったこと(母親の味方)、宗教心のあるひとたちには治癒の霊的な原理が訴えたこと(宗教的見方)、そして、スウェデンボルグ主義の例でわかるように、あるいはスウェデンボルグ主義と結びついたことにより、当時はやっていた骨相学とか動物磁気説などの治癒や自己開発のシステムととコンパチだったことなどがあげられると思われます。

   次回は骨相学 phrenology=craniognomy を取り上げる予定です。

 karakusa.jpg 

参考url―― 

"F. E. Boericke and His Machine" <http://julianwinston.com/archives/bt/boericke_potentizer.php> 

"Otis Clapp 1820 - 1886" Sue Young Homeopathy: Website of a London-Based Homeopath <http://homeopathy.wildfalcon.com/archives/2008/03/21/otis-clapp-and-homeopathy/>

Alexander Kotok, "The History of Homeopathy in the Russian Empire until World War I, as compared with other European countries and the USA: similarities and discrepancies" <http://www.homeoint.org/books4/kotok/4430.htm>  

「エマニュエル・スヴェーデンボリ - Wikipedia」 

 "Emannuel Swedenborg - Wikipedia" 

 "Swedenborgian Church [Swdenborgianism] - Wikipedia"


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コメント 4

さえとあすみ

「魂と呼ばれる人間の霊」ですか・・・。
soulとspiritって結びつけて考えたことがなかったので
難しいお話ですね。
あっ!遅ればせながら今年もよろしくお願いします♪
また お邪魔しまくります^^
by さえとあすみ (2009-01-07 10:23) 

morichan

さえとあすみさま
新年おめでとうございます。
どうもありがとうございます。
勝手な話ですいません。実はいま自分を追いつめている状況でして。これまで以上に分裂気味です。
ことし4月でカリフォルニア時間は終わるのですけれど(だって日本に戻るから)、本年もよろしくお願いします。
by morichan (2009-01-07 13:29) 

マド@Berkeley

今更のコメントですが、今日のブログにちょっと出てきたので…。
「ホメオパシー」ってBerkeley近辺でも支持者結構居ますよね。
その証拠にレメディを売っています…エレファント・ファーマシーや
ホールフーズで…。
個人的には希釈しちゃってなんでどうして?なので腑に落ちないのですが。
by マド@Berkeley (2009-02-17 03:58) 

morichan

マドさま、読んでいただいただけでなく、コメントとトラックバックをいただき、感謝にたえません。
みんなカリフォルニアの文化的な風土なんだと思います。
by morichan (2009-02-17 14:24) 

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