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January 15 メスメリズム(催眠術)とアメリカ (その1)――擬似科学をめぐって(16)  On Pseudosciences (16) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]

January 15, 2009 (Thursday)

   「January 11-12 コトバの問題のつづきで辞書問題などの予告・・・・・・でこちんと骨相学 (中篇の4)――擬似科学をめぐって(13)  On Pseudosciences (13)」の最後に書いたように、アメリカにおけるメスメリズムの展開についてさらりと書いていきます。さらり、というのは文学作品とかになるべく触れないようにして、という含みです。

  が、最初に復習がてら言葉の整理を。思えば、メスメリズムも骨相学に似て、呼び名が錯綜しており、メスマーはアニマル・マグネティズム(「動物磁気説」と訳される)を唱え、しかしメスマーの思想を揶揄する呼び名としてメスメリズムが起こり、そしてメスマーの衣鉢をついだピュイセギュールによって復活させられた「メスメリズム」は19世紀最大のカルトとなるわけでしょうが、一方で、英語のhypnotismという言葉も1840年代(たぶん1841年の11月)に起こります。ヒプノティズムは、「眠り」意味するギリシア語のhypnos が語幹になっていて、コトバとしては、まあ、「催眠術」に一番近い。ような気がする。少なくとも、(「動物磁気説」のように)メスマー自身の宇宙論的な思想を内包しておらないし、「メスメリズム」の意味がアバウト(つまり動物磁気説を含んでいる場合から「催眠」の同義語の場合まで幅がありすぎる)なのに対して、思想とは無関係に「技法」と「現象」だけを指しうる言葉に見えます。hypnotism という英語は医者のジェイムズ・ブレイド James Braid, 1795-1860 が最初は "neuro-hypnotism" つまり「神経 nerves の睡眠」という意味合いで言いだし、やがて自ら "neuro" を落としたものです。このおじさんは、英語のウィキペディアによると、最初の真の「催眠療法家 hypnotherapist」、「近代催眠術の父 Father of Modern Hypnotism」と呼ばれているそうです。やれやれ。でもフランス語のhypnotisme は1820にエティエンヌ・フェリックス・デナン・ドゥ=キュヴィエEtienne Félix d'Henin de Cuvillers, 1755-1841 に使用されていて、このドゥ=キュヴィエさんも、お察しのとおり、メスマーの神秘思想には共鳴しない(端的には「磁気流体magnetif fluid 」の存在は認めない)が、「科学」として実践しようとした "magnetist" でした。英語のウィキペディアにリンクされているページのタイトルの副題は 「催眠術の(ひとりの)創始者」"a founder of hypnotism" と言いますw <http://www.general-anaesthesia.com/cuvillers.html>。で、「ヒプノティズム」の語がイギリスのジェイムズ・ブレイドに帰せられるのは不正確、と言っております。

  ちなみに、日本語のウィキペディアにおいて、「催眠」の項目は、比較的最近(2008年9月)「催眠術」を統合するかどうかという議論があっていまの記事になったようですが、基本姿勢は「催眠術」を問題視する科学の側からの「催眠」の解説と見えます(「ノート:催眠」)。「催眠術という呼称」という見出しのくだりがあるので、そこを引用しておきます。――

催眠術とは、催眠の元の呼ばれ方である。19世紀の英国の医師、ジェイムズ・ブレイドの造語だとされる。現代の催眠に携わる人の間では「催眠は魔術的なものではなく、科学であるから術をつけないでほしい」という主張もある。

現代で催眠術という場合、特に舞台催眠 (英: stage hypnosis、ショウ催眠)を指す場合がある。 舞台催眠の応用のひとつには催眠商法がある。 一般のほとんどの人が「催眠術」をTVなどでよく見る、いわゆる「ショウ催眠」としてしか認知していない為に「超能力」「魔術」などといったものと同一視し、誤解されがちであるが、現代の催眠は心理学を応用した「技術」である。

  ウィキペディアには、前にも言及したように、「フランツ・アントン・メスメル」の項目があります。文化史的な記述といっていいのかしら。こちらから「催眠(術)」へはつながりを示していますが、「催眠」の記事のほうにはメスマー(メスメル)のメの字も出てきません。

  (日本における「催眠」の歴史は、「催眠の歴史」というページ <http://homepage3.nifty.com/saimin/rekisi.htm>の下の方の「日本近代の催眠の歴史」という年表が詳しいです。「ブレイドはギリシア語の眠りからとったこの「催眠」という現象が、眠りとは似て非なるものであることに1年もしないうちに気づくのであるが、既に時遅く、その名称は現在まで続いている」といったコメントもあり、全体がメスメリズムについての詳しい解説になっています。参考文献にあがっている一柳廣孝『催眠術の日本近代』(青弓社, 1997; 2006)が確かに詳しい本だったと思いだしました。一柳さんというのは日本文学の人だと思います)。

  さて、ついまた、前置きが長くなりました。イギリスでは、1844年から47年ごろのメスメリズム公開講義のチラシで見たように、メスメリズムは大衆的な科学、医療として流行するいっぽうで、ジェイムズ・ブレイドみたいな、より科学的な姿勢をことさら示そうとする学者も出てきます。あるいはジェイムズ・エズデールJames Esdaile, 1808-59 が英国植民地だったインドで催眠術的な無痛手術を行なってたいへん評判になる〔細かい話ですが、英語のWikipedia の記事は、エズデールとメスメリズムの関係について、記事の場所によって異なる見解を示しています〕。しかし一方外科手術の便宜に供する催眠をやがて駆逐することになる麻酔 anesthesia の研究が欧米で急速に高まっていく。 アメリカに1830年代に入ってきて30年代40年代のカルト的な運動の中心になるメスメリズムは、あっさり言ってしまうと、神秘主義的なタイプのメスメリズムでした。それは1836年にフランスからボストンにやってきたシャルル・ポワイヤン Charles Poyen St. Sauveur, ? - 1844 というフランス人の影響がたいへんに大きい。ポワイヤンはいちおうピュイセギュールの弟子です。この人は、動物磁気説の唯一最大の重要な発見はトランス、夢遊状態である、と信じた人でしたが、彼の講演(見世物)のまわったあとのアメリカ東部ニューイングランドに続々と霊能者が目覚めることになるのでした。

つづく。

付記。『オックスフォード英語大辞典』の "hypnotism" の記述――

The process of hypnotizing, or artificially producing a state in which the subject appears to be in a deep sleep, without any power of changing his mental or physical condition, except under the influence of some external suggestion or direction, to which he is involuntarily and unconsciously obedient.  On recovering from this condition, the person has usually no remembrance of what he has said or done during the hypnotic state.  The term is also applied to the branch of science which deals with the production of this state, and its causes and phenomena.  〔"braidism" "mesmerism" を参照しろ、とここに書かれています〕

  以上が1番の定義で、神経がどうこうは言っておらず、「被験者が深い眠りに落ちているようにみえる状態を人為的につくりだす過程」で、そのとき被験者は「精神的・身体的状況を自ら変化させる力はもたず、ただ外からの示唆なり命令なりの影響下にあり、意志とは無関係にかつ無意識にそれに従う」とか書かれていて、最後に「この状態をつくること、また、その原因と現象を扱う科学の部門のことも言う」と「科学 science」の語を使っています。そのあとにわざわざわざの説明があります。――
   
The usual way of inducing the state consists in causing a person to look fixedly, for several minutes, with complete concentration of the attention, at a bright or conspicuous object placed above and in front of the eyes at so short a distance that the convergence of the optic axes can only be accomplished with effort.

   "optic axes" というのは手元の英和辞典だと、光学用語として「光学軸」《複屈折媒質の複屈折が起こらない軸》、解剖岳用語として「視軸」とあるのですが、「眼光大魔神」こと魚里 博先生のコラム「眼光鋭く――視軸と照準線」 <http://www.tomey.co.jp/tomey_corp/info/35/35_p15m.html> によると、「視軸(visual axis)や光軸(optic axis)」と書かれています。よくわかりませんん。

   そして、用例はブレイドがかなり占有しているように見えます。――

   1842 Braid in Trans. Brit. Assoc. (29 June), Practical Essay on the Curative Agency of Neuro-Hypnotism.  1843 I Neurypnol. 13 By the term ‘Neuro-Hypnotism’ then, is to be understood ‘nervous sleep’; and, for the sake of brevity, suppressing the prefix ‘neuro’, by the terms—Hypnotic, will be understood ‘The state or condition of nervous sleep’; Hypnotize, ‘To induce nervous sleep’; Hypnotized, ‘One who has been put into the state of nervous sleep’; Hypnotism, ‘Nervous sleep’; Hypnotist, ‘One who practises Neuro-Hypnotism’.  1847–9 Todd Cycl. Anat. IV. 695/2 Modes of inducing somnambulism 'practised' under the designation of hypnotism.  1852 Braid (title) Magic, Witchcraft, Animal Magnetism, Hypnotism and Electro Biology (ed. 3).  1883 19th Cent. Oct. 696 Under the name of Hypnotism, the subject has after a long interval reappeared on the scientific horizon. 〔長い間をおいたあと、ヒプノティズムの名のもとに、この主題は科学的地平に再登場した〕 1892 Brit. Med. Jrnl. 27 Aug. 459 Hypnotism is an agent of great value in the treatment of chronic alcoholism.  1893 Pall Mall G. 10 Jan. 1/3 Hypnotism is the science which deals with the phenomena of a peculiar mental state produced by artificial means. 〔ヒプノティズムは人工的な手段で引き起こされた特異な精神状態の諸現象を扱う科学である・・・・・・(よく意味がわかりません)〕 1898 Times 14 July 14/3 The habitual use of hypnotism on women is greatly injurious, both morally and intellectually.

 

 

参考urls―

「催眠」 - Wikipedia

「催眠の歴史」 <http://homepage3.nifty.com/saimin/rekisi.htm> 〔松原慎HP <http://homepage3.nifty.com/saimin/benri.html> 内〕

「フランツ・アントン・メスメル」 - Wikipedia

ジャン・チュイリエ Jean Thuillier 著  高橋純+高橋百代訳 『眠りの魔術師メスマー』 <http://www.kousakusha.co.jp/DTL/mesmer.html> 〔工作舎の紹介ページ 1992.9刊〕

"Biography of Charles Poyen Sait Sauveur ~ Phineas Parkhurst Quimby ~ The Scientific Man" <http://www.phineasquimby.com/charles_poyen.html> 〔Phineas Parkhurst Quimby (1802-66) に捧げられたphineasquimby.com 内。ちょっと(かなり)不気味なトップページ <http://www.phineasquimby.com/>と解説ページ <http://www.phineasquimby.com/about.html>〕


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