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January 16-19 メスメリズム(催眠術)とアメリカ (その2)――擬似科学をめぐって(17)  On Pseudosciences (17) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]

January 16, 2009 (Thursday)
January 17, 2009 (Friday)
January 18, 2009 (Saturday)
January 19, 2009 (Sunday)

    開き直って非科学の側から書くつもりになったものの、あれこれ読んでいると非科学のほうの思想史のほうがたいへんだ(たとえばとりあえず象徴というコトバに落として考えると、伝統的に「光」が啓示や英知の象徴だったのが、光から電気や磁気への転換が、科学と宗教のはざまでどのように起こっていたのかとか――これが実は意外と古い可能性があり――、あるいは、逆に19世紀にあらわになってくるオカルティズムが科学をどのように接取して神秘「学」 (occult sicence) の装いをまとうかとか――ブラヴァツキー夫人の、とくに東洋思想が前面に出てくる前の『ヴェールを脱いだイシス Isis Unveiled』なんかは科学ないし擬似科学への言及が多いわけです――)ということが今さらながらわかって、沈黙(沈思黙考?)に落ちていました。

  気を取り直して、とりあえずはもともとのあっさりしたテクストを編むべく、糸を手繰りよせてみると、前の記事の終わりの方で、「この人は、動物磁気説の唯一最大の重要な発見はトランス、夢遊状態である、と信じた人でしたが、彼の講演(見世物)のまわったあとのアメリカ東部ニューイングランドに続々と霊能者が目覚めることになるのでした」とか書いちゃいました。アヤシーですが、そのラインで書いてみます。

  客観的に考えれば、ポワイヤンに、あるいはメスメリズムに感化された人間は、いくつかのカテゴリーにわけられるでしょう。第一に思想的に感化された人間、第二に身体的に感化された人間(被験者)、第三に両方で感化された人間。第一は、まじめに感化される場合と(いくぶんかでも)商売・金儲け(の可能性)として感化される場合があるかもしれません。

  ところで、Charles Poyen ってどういうカタカナ表記だろう、とググってみると原語でしか出てこず、それも大半は本の情報なのでした。で、例外的にPoyen が出てくるのはアメリカ文学関係の研究発表だったりして(= THE AMERICAN LITERATURE SOCIETY OF JAPAN =見覚えがあるようなw)。そして、そこではジェンダー問題が案の定出てくるのでした(被験者が女性で術師が男で支配関係みたいな)。日本で翻訳の出ている Maria Tatar の Spellbound というメスメリズムと文学の関係の研究書の記述を借りれば――

There appeared a new breed of mesmerists--itinerant magnetizers who made the rounds of carnivals and festivals with their trance maidens in order to cash in on the latest fad sweeping the Continent.  The cruel exploitation of an innocent young girl by a shrewed mesmerist wizard was to become a pervasive theme in nineteenth-century European and American literature.  (31) 〔新しいメスメリストの一団があらわれた――大陸を席捲するする最新の流行に乗って金を稼ごうと、トランスに陥る乙女をつれてカーニヴァルやフェスティヴァルをまわる旅回りの催眠術師たちである。魔術師のような狡賢いメスメリストが無垢な若い少女を無残に搾取するという主題は、19世紀のヨーロッパとアメリカの文学に広くみられるものだ。〕

   イギリスにおける1840年代のメスメリズムのチラシを並べたときに、「科学」の教育というのが少なくとも看板としてはかかげられていた(見世物ではなくて「講義」だった)のを覚えておられるかたがおるかもしれませんが、そういう大衆的なeducation と entertainment の要素のバランスはときに大きく崩れるわけです。たぶん商売という要素が強くなったときに。(この教育と娯楽というのは、思えば、ルネサンス・フェアの歴史のなかにもある要素なのでした〔「September 30 ルネサンス・フェアをめぐって (中)  Renaissance Fair (2)」参照〕。) そして、性的なもののアピールが陰に陽にショーにはついてまわるものなのかもしれません(これを言いだすとキリがないような気がするのですが)。

  シャルル・ポワイヤンは1836年にアメリカにやってきてすぐにメスメリズムの実演を行ない、かつ、その年のうちに例の1831年のパリでの王立医学アカデミーの報告の英訳を出版します。

Report on the magnetical experiments made by the Commission of the Royal Academy of Medicine, of Paris, read in the meetings of June 21 and 28, 1831, by Mr. Husson, the reporter. Translated from the French, and Preceded with an Introduction, by Charles Poyen St. Sauveur.
by Husson, Mr.; Trans. Charles Poyen; Académie national de médecine (France)
Boston : D.K. Hitchcock, 1836. 〔AddAll の古本情報によると、lxxi, [1], [73]-172pp. ポワイヤンによる70ページくらいの序論がついている〕

  これは、実は、最初の英訳ではなくて、1833年にスコットランドの コフーン J. C. Colquhoun という人が――この人はその後メスメリズムに関する自身の著書 Isis Revelata: An Inquiry into the Origin, Progress, and Present State of Animal Magnetism (Edinburgh: Maclachlan and Stewart, 1836[?]) を書くのですけれど――訳し、それが抜粋されてパンフレットとしてイギリスでよく読まれ、また議論されたようです―― Report of the Experiments on Animal Magnetism Made by Committee . . . of the French Academy of Sciences (Edinburgh: Robert Cadell, 1833) 〔Alison Winter, Mesmerized: Powers of Mind in Victorian Britain, pp. 42, 417参照〕。
   ポワイヤンがコフーンの既訳を利用したのかどうかわかりませんが、訳の前に約70ページの序論があり、ここでポワイヤンはメスメリズムについてまとめて論じているそうです。
  ポワイヤンが連続講演によってメスメリズムをアメリカに広めたということになっています。Animal magnetism: or Psycodunamy - Leger, Theodore という1846年にニューヨークのAppleton 社から出版された本によると、ポワイヤンの前にフランス人のJoseph Du
Commun が1829年の7月と8月にニューヨークで講演を行なっていて、さらにそこで語ったところでは、1815年にアメリカ合衆国にやってきたときに、この "the new science" を実践する二人の知り合いと出会い、小さなサークルをつくったということのようです。この人はウェストポイントの士官学校のフランス人教師をしていたのですけれど、そうだそうだ。エドガー・ポーが士官学校にいたときにこの人に教わったのではないかとひそかにむかし考えたのを思い出しました(頭がボケてます)。
  
  が、ともあれ、ポワイヤンは、1837年になるとニューイングランドを広範に講演してまわります。そしてその年の10月には『ニューイングランドにおけるアニマル・マグネティズムの進歩 The Progress of Animal Magnetism in New England』を書きあげ、出版します。ポワイヤン自身の回想では、最初のころはパッとしなかったけれど、アシスタントに若い女性被験者を伴うようになって人気があがったということです。この人の名前を思い出せなかったのですが、上のE-textを見ていて出てきました。――
However, M. Poyen found in Miss Gleason, of Paw-
tucket, a young lady of respectable family, a remarkable
somnambulic subject, with whom he visited Boston and
Lowell, and gave a series of practical lectures, which
gained from among the most scientific and eminent per-
sons in this country many converts to the doctrine. He
likewise enabled many gentlemen, by his instructions, to
become professional dunamisers. (Leger, Animal Magnetism, p. 367)
   "dunamise" というのはOED にもあがってないのですけれど、 "magnetize" の意味のようです(psycodunamy は animal magnetism の別の言い方らしい)。
  このテオドール・レジェというフランス人による1846年の本は、どうやらアニマル・マグネティズムに共鳴する立場から書かれた本のようなのですが、若い良家の子女のグリアソン嬢という際立った反応を見せる被験者を得ることによってアメリカの最も科学的で著名な人たちからこの説への改宗者 converts を多く出したと書いています。しかしまた、このことは講義の内容とは別の「見世物」的な部分、「ショー」的な部分がアピールしたということでもあります、よくも悪くも。若い女性のアシスタントだけでなく、観客(聴衆)のなかからボランティアで被験者を募って、催眠術にかける。そういう華やかな実演によって、たとえば大きな音や臭いニオイに無感動になるとか、針を刺しても無感覚とか、歯痛がなおるとか、実験で示して見せることで、人々に訴えていきます。それでも、引用の最後のところにあるように、「〔ポワイヤンは〕また、インストラクションによって多くの紳士がプロの dunamiser になることをえさしめた」というのもまた事実であり、その後のアメリカの心理療法や神秘主義の展開を考える上で重要なところです。ポワイヤンの講演=公演旅行のあとには、トランス体験を通して病気が治ったという人々が多数出ただけでなく、超感覚的知覚 ESP を発現する人々も多く現われ、そしてまた、さらなる催眠術師たちが出現したのでした(367ページからの引用のあとにはそういう、催眠術の能力を自然に発現した人たちのエピソードが列挙されています)。
  で、上にあげた勝手な分類でいうと第三の人たちのなかで、被験者としてトランス状態を体験し、その後自らがメスメリズムの思想や技術を展開する人たちが面白いのは、支配被支配という、いまふうな枠組みと言いますか、ひとつには男女、ひとつには社会の支配階層と貧乏人階層、ひとつには術師と被験者という関係が崩れているところだと、自分には思えます。(思えますが、イジメの構図みたいに玉突き状態で支配被支配関係は変わらないという意地の悪い理屈もあるかもしれません。)
  直接間接にシャルル・ポワイヤンによって目覚めた人たちのなかに、(1) 時計屋だったけど1838年のメイン州ベルファストでの講演以降2年間ポワイヤンについてまわって術を体得して自ら実演し、やがてシャーマン的な心理治療を行なうようになる Phineas Parkhurst Quimby, 1802-66、(2) ポワイヤンによってメスメリズムにかけられた Stanley Grimes という人によって靴職人の見習いだった18歳のときに術にかけられて透視能力を発現し、やがて『自然の諸原理』 (1847) という一種のベストセラーを書いて1848年以降のスピリチュアリズムの展開を準備した Andrew Jackson Davis, 1826-1910、 (3) 長老派の牧師だったけれど、メスメリズムとスウェデンボルグ主義の一致を信じ、Mesmer and Swedenborg を著し、催眠術の実験を行なって被験者は「高次の意識」に入ることを確信した George Bush, 1786-1859、(4) 伝統的なカルヴィニズムの教説がもっぱら人々の恐怖と不安をもとにして唱えられることに反発し、霊的再生の契機を動物磁気説に求め、"new electrical psychology" を主張したメイン州の説教者の John Bovee Dods, 1795-1872 などいます。
まとまりがありませんが つづく。
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by Charles Poyen
Boston, Weeks, Jordan & co., 1837. 212pp.
このポワイヤンの有名なほうの本は、E-text があります(flapbook は、本論のあと207ページから始まる、イギリスに渡ったDupotet についてのAppendix の209ページまでしか読めませんが)――
Progress of Animal Magnetism in New England: Being a Collection of ... - Charles Poyen
Book digitized by Google from the library of the University of Michigan and uploaded to the Internet Archive by user tpb.

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